ワンライがワンだったこと一回もないな…いやワンライとは?と思って大まかに時間測ったら、下書きが40分前後、肉付けが2時間ほどだった。その後ちまちま校正を重ねているので、今回も全然ワンじゃないです。 以下、「春待つ小指」の下書き。 この時点ではFALLIN' LOVE=IT'Sの続きかなと思ってた。肉付けの段階で違うなと思って削いだ。何回か鏡を覗くのはその名残。 ーーーーーーーーーーー ワンライもう少し 届いたばかりの制服を着てみる。復学の準備は順調に進んでいる。机の上には真新しい文房具。人生初の宿題はHiMERUはんに習いながらちょっとずつすすめている。 折り目のついたシャツ。糊のにおい。小さなボタンをいくつもしめて、ブレザーを羽織る。背が伸びることを期待して揃えた上下は少しダボっとしている。まあ、これくらいすぐやろ。最近は早く寝るようになったし、お腹も空くし、成長期くるんやろ。 ネクタイを結ぼうとして手間取る。何度か仕事でつける機会があって覚えたと思っていたけど、しばらくしないうちに忘れてしまった。惜しいところまで来ていると思うんだけど。今度ジュンはんがおるときに教えてもらわなあかんな。 悪戦苦闘していると、ドアがノックされた。反射的に返事して向かう。ジュンはんが鍵持ってくの忘れたんかと思ったのに、思いもよらない声が降ってきた。 「HiMERUです」 「ひ、HiMERUはん?」 ジュンはんなら良いんかと言われればそんなことはないけど、復学が楽しみで制服を着ているところをHiMERUはんに見られるのは恥ずかしい。かといってまたいくつものボタンをはずして着替えるとなると、その間待たせてしまう。 「ご、ご用件は」 「かしこまってどうしたんですか? HiMERUの荷物に桜河の書類が紛れていたので届けに来たのです」 「え、ほんまか…今開けるわ」 「お取り込み中なら出直しますが」 「いや、あの、大丈夫やねんけど、一個だけ約束してくれん?」 「なんですか?」 「笑わんといてな」 そう言ってドアを開けると、HiMERUはんの目がまんまるくなって瞬いた。 「おや、これは」 「ほら、わし洋服苦手やから一回練習してみようと思ってな。朝遅刻するとあかんし」 早口に言い訳を捲し立てる。実際ネクタイは結べていないし、練習と言って差し支えない。 「ふむ、蛮カラ学園は拝見しましたけど、桜河の制服姿を見るのは初めてですね」 「うん…」 「よくお似合いですよ。初々しくて可愛らしい。HiMERUと違って制服が負けている感じもしません」 「う、覚えとったんか」 「ふふふ。ネクタイはどうしたんですか?」 「ああ、結び方を忘れてしもてな。ジュンはん帰ってきたら教えてもらうわ」 「よければHiMERUが教えましょうか」 「ほんま?」 「ええ、お邪魔しても?」 「うん、ええよ」 初々しくてかわいいか。この袖のブカブカ具合、かっこいいって言われるわけないのは分かってたけど、かっこつかんわ。 「ここをこうするのです」 「ん、できた」 「上手にできましたね」 鏡の前に立つと、ネクタイがあるだけで少し大人っぽくなったような気がする。ネクタイに手をかけると、ふわっと、いつか見た夢の記憶が蘇った。ほんの少しネクタイを緩めてみる。 「おや、苦しかったですか?」 「ううん、この間HiMERUはんが緩めてるの見て良ぇなっち思ったから」 あと「先生」も。今思えばあの夢は結構、現実に影響されていたらしい。 HiMERUはんは何も言わずににっこりと微笑んでいる。 「あーあ、でも、HiMERUはんと同じ学校やったらよかったのにな」 「ふふ。そう言っていただけるのは光栄ですが、HiMERUとは学年が違いますから、どのみち学校で会う機会はあまりないのではないでしょうか。漣もそうですよね」 「そっか。ジュンはんもHiMERUはんも先輩やもんな」 「桜河ならきっとすぐに友だちができますよ」 「うん」 たしかにそれはちょっと心配やけど、それだけじゃないんよ。むしろそれよりも、単純にHiMERUはんと一緒に学校行ったり帰ったり出来たらいいなって思ったのが大きいんやけど。 「ところで、玲明学園と秀越学園のちょうど真ん中あたりに出来たアイスクリーム専門店が人気だそうですよ」 「冬やのに?」 「ええ、連日大行列だとか」 「へえ、行ってみたいね」 「そうですね。でも、今は寒いので、こういうのはどうですか? 復学して、生活に慣れてきた頃には暖かくなるでしょう。放課後、待ち合わせて一緒に行くというのは?」 「放課後!? わしそういうの憧れとったんよ。うん、そうしよ」 「では、約束しましょう。楽しみですね」 指切りする。ドアが開いて、ジュンはんが帰ってきた。 「ただいまーってあれ、靴……HiMERU?」 「ジュンはん、おかえりなさい」 「お邪魔しています、漣。もういい時間ですし、HiMERUはこれでお暇しますね」 「え、はい……あれ、サクラくん珍しい格好してますね」 「コッコッコ。ちょっと練習してみたんよ。ほなHiMERUはん、おおきにな」 「ええ、おやすみなさい」 「おやすみ」 「おやすみなさい」 HiMERUはんを見送ってネクタイに手をかける。確かにもういい時間だった。HiMERUはんと話しているとあっという間に時間が過ぎる。 「なあジュンはん、聞いても良え?」 「なんですか?」 「やっぱ制服大きすぎたやろか」 「え? うーん、大丈夫ですよぉ。サクラくん最近よく寝るし、すぐにそれくらい大きくなりますって」 「うん、そうなると良ぇんやけど」 できればHiMERUはんよりは大きくなりたいところ。 あと2年は法律で大人になれないし、まだコーヒーは飲めないし、背もそんな明らかには伸びてないし、だいたい現実のわしは思いを伝えることすらできていない。できてないというか、してないってのもあるんやけどな。 「なあジュンはん」 「今度はどうしたんですか?」 「あのな、放課後にー……」 待ち合わせてどっか行くのって、デートっち言うても良ぇと思う? 「ごめん、やっぱなんでもないわ」 「そうですか? あ、サクラくん先にお風呂入ります?」 「ううん、わしもう入ったで」 「じゃあ俺、サクッと入ってきますね」 「うん、おやすみ」 制服を元通りハンガーに掛けて、布団に入る。さっきまでHiMERUはんが腰掛けていたところだけ温かいような気がする。 もう少ししたら高校生。それで、もう少ししたら……高鳴る胸と裏腹に、みるみるうちに瞼が重たくなっていく。あの夢の続きとか見られたら良ぇのにな。ぼんやりとそう考えながら意識を手放した。 #創作メモ いろいろ 2023/12/15(Fri)
以下、「春待つ小指」の下書き。
この時点ではFALLIN' LOVE=IT'Sの続きかなと思ってた。肉付けの段階で違うなと思って削いだ。何回か鏡を覗くのはその名残。
ーーーーーーーーーーー
ワンライもう少し
届いたばかりの制服を着てみる。復学の準備は順調に進んでいる。机の上には真新しい文房具。人生初の宿題はHiMERUはんに習いながらちょっとずつすすめている。
折り目のついたシャツ。糊のにおい。小さなボタンをいくつもしめて、ブレザーを羽織る。背が伸びることを期待して揃えた上下は少しダボっとしている。まあ、これくらいすぐやろ。最近は早く寝るようになったし、お腹も空くし、成長期くるんやろ。
ネクタイを結ぼうとして手間取る。何度か仕事でつける機会があって覚えたと思っていたけど、しばらくしないうちに忘れてしまった。惜しいところまで来ていると思うんだけど。今度ジュンはんがおるときに教えてもらわなあかんな。
悪戦苦闘していると、ドアがノックされた。反射的に返事して向かう。ジュンはんが鍵持ってくの忘れたんかと思ったのに、思いもよらない声が降ってきた。
「HiMERUです」
「ひ、HiMERUはん?」
ジュンはんなら良いんかと言われればそんなことはないけど、復学が楽しみで制服を着ているところをHiMERUはんに見られるのは恥ずかしい。かといってまたいくつものボタンをはずして着替えるとなると、その間待たせてしまう。
「ご、ご用件は」
「かしこまってどうしたんですか? HiMERUの荷物に桜河の書類が紛れていたので届けに来たのです」
「え、ほんまか…今開けるわ」
「お取り込み中なら出直しますが」
「いや、あの、大丈夫やねんけど、一個だけ約束してくれん?」
「なんですか?」
「笑わんといてな」
そう言ってドアを開けると、HiMERUはんの目がまんまるくなって瞬いた。
「おや、これは」
「ほら、わし洋服苦手やから一回練習してみようと思ってな。朝遅刻するとあかんし」
早口に言い訳を捲し立てる。実際ネクタイは結べていないし、練習と言って差し支えない。
「ふむ、蛮カラ学園は拝見しましたけど、桜河の制服姿を見るのは初めてですね」
「うん…」
「よくお似合いですよ。初々しくて可愛らしい。HiMERUと違って制服が負けている感じもしません」
「う、覚えとったんか」
「ふふふ。ネクタイはどうしたんですか?」
「ああ、結び方を忘れてしもてな。ジュンはん帰ってきたら教えてもらうわ」
「よければHiMERUが教えましょうか」
「ほんま?」
「ええ、お邪魔しても?」
「うん、ええよ」
初々しくてかわいいか。この袖のブカブカ具合、かっこいいって言われるわけないのは分かってたけど、かっこつかんわ。
「ここをこうするのです」
「ん、できた」
「上手にできましたね」
鏡の前に立つと、ネクタイがあるだけで少し大人っぽくなったような気がする。ネクタイに手をかけると、ふわっと、いつか見た夢の記憶が蘇った。ほんの少しネクタイを緩めてみる。
「おや、苦しかったですか?」
「ううん、この間HiMERUはんが緩めてるの見て良ぇなっち思ったから」
あと「先生」も。今思えばあの夢は結構、現実に影響されていたらしい。
HiMERUはんは何も言わずににっこりと微笑んでいる。
「あーあ、でも、HiMERUはんと同じ学校やったらよかったのにな」
「ふふ。そう言っていただけるのは光栄ですが、HiMERUとは学年が違いますから、どのみち学校で会う機会はあまりないのではないでしょうか。漣もそうですよね」
「そっか。ジュンはんもHiMERUはんも先輩やもんな」
「桜河ならきっとすぐに友だちができますよ」
「うん」
たしかにそれはちょっと心配やけど、それだけじゃないんよ。むしろそれよりも、単純にHiMERUはんと一緒に学校行ったり帰ったり出来たらいいなって思ったのが大きいんやけど。
「ところで、玲明学園と秀越学園のちょうど真ん中あたりに出来たアイスクリーム専門店が人気だそうですよ」
「冬やのに?」
「ええ、連日大行列だとか」
「へえ、行ってみたいね」
「そうですね。でも、今は寒いので、こういうのはどうですか? 復学して、生活に慣れてきた頃には暖かくなるでしょう。放課後、待ち合わせて一緒に行くというのは?」
「放課後!? わしそういうの憧れとったんよ。うん、そうしよ」
「では、約束しましょう。楽しみですね」
指切りする。ドアが開いて、ジュンはんが帰ってきた。
「ただいまーってあれ、靴……HiMERU?」
「ジュンはん、おかえりなさい」
「お邪魔しています、漣。もういい時間ですし、HiMERUはこれでお暇しますね」
「え、はい……あれ、サクラくん珍しい格好してますね」
「コッコッコ。ちょっと練習してみたんよ。ほなHiMERUはん、おおきにな」
「ええ、おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
HiMERUはんを見送ってネクタイに手をかける。確かにもういい時間だった。HiMERUはんと話しているとあっという間に時間が過ぎる。
「なあジュンはん、聞いても良え?」
「なんですか?」
「やっぱ制服大きすぎたやろか」
「え? うーん、大丈夫ですよぉ。サクラくん最近よく寝るし、すぐにそれくらい大きくなりますって」
「うん、そうなると良ぇんやけど」
できればHiMERUはんよりは大きくなりたいところ。
あと2年は法律で大人になれないし、まだコーヒーは飲めないし、背もそんな明らかには伸びてないし、だいたい現実のわしは思いを伝えることすらできていない。できてないというか、してないってのもあるんやけどな。
「なあジュンはん」
「今度はどうしたんですか?」
「あのな、放課後にー……」
待ち合わせてどっか行くのって、デートっち言うても良ぇと思う?
「ごめん、やっぱなんでもないわ」
「そうですか? あ、サクラくん先にお風呂入ります?」
「ううん、わしもう入ったで」
「じゃあ俺、サクッと入ってきますね」
「うん、おやすみ」
制服を元通りハンガーに掛けて、布団に入る。さっきまでHiMERUはんが腰掛けていたところだけ温かいような気がする。
もう少ししたら高校生。それで、もう少ししたら……高鳴る胸と裏腹に、みるみるうちに瞼が重たくなっていく。あの夢の続きとか見られたら良ぇのにな。ぼんやりとそう考えながら意識を手放した。
#創作メモ