おやすみなさいの前に2
おらを呼んだのはおめぇさんか? おら? おらはしがねぇ神だ……んだ、神だ。そうは言っても大したことはできねぇ、足の小指の爪みてぇなもんだ。その証拠に、神無月だってのにこっただとこさ来た。呼ばれんかったんさ、縁結びの会議なんてたいそうなもんにはな。
あ? おめぇさんも呼んでねぇだ? そんなはずはねぇ。おめぇさん、今朝もちゃんと起きて仕事さ行ったな。聞いてもねぇじじぃどもの戯言に相槌さ打ってやって、誰も殴らず帰ってきたな。そんできっちりご飯さ作って残さず食べた。他にも色々あんだけんど、そういう一つ一つが偶然重なって呼んじまうことがあんだ。ああ、そうさ。そんなことは滅多にねぇ。けんど、全くねぇわけでもねぇのさ。
ほいでおめぇさん、何ぞ聞いてほしい願いがあんでねぇのか。おらもずっとここに居られるわけじゃねぇ。あるなら早よぉ言ったら良ぇ。ん? こはくさとHiMERUさが初めてちんぽこに触れ合った夜のことが知りてぇ? おめぇさんが良いならおらは構わねぇけど、普通もっと金だの地位だの……まあ、そっただもんを頼まれたところで、おらにはどうこうできるような力はねぇけんど。
良ぇぞ、話してやろ。あれは2人がねんごろになってしばらく経ってからのことじゃ。ちょうど今くらいの時期じゃったか、いや、もっと年の瀬じゃったかしれん。月が綺麗な夜で、窓の外には鈴懸の木の実が数個、風にぷらぷら揺れておった。だから、こはくさの部屋だな。2人部屋だで、時たま逢瀬に使える日がある。その日も夕飯の後、HiMERUさが訪ねて来とった。
逢瀬の時はいつもそうだ。まずベッドさ並んで掛けて、ひとしきり、他愛もないおしゃべりをする。だんだんと話の間隔が開いてくると、どちらからともなく手を握り合う。ほんで時間がある晩は、何度も何度もくちびるを合わすのさ。まず1回、触れ合うまでの時間も楽しむみたいにゆっくり口付ける。ほんだら照れ隠しか何か分からんが、笑いながら何遍も小さな音を鳴らすんじゃ。それから……あれは金木犀の匂いがした頃か、HiMERUさが教えてな。以来、おらに耳があんなら塞ぎてぇほど恥ずかしい音がしばらく響く。
その日までは、それでおしまいじゃった。息が続かんようになったら見つめ合って、もっぺんだけくちびるを合わせて、大人しく部屋へ帰って寝ておった。例え下半身がどうなってようが、見ない、触れないのが暗黙の了解になっておった。どのみち各々処理するならともにすれば良いものを、と天井の神などは言うておった。厠の神などはたいそう激しく同意しておったもんじゃ。
言葉で説明するのは難しいが、破られる予感はあった。HiMERUさが部屋に入って来た時から、なんとなくそんな気がしておった。
2人のくちびるを結ぶ糸が切れた後、もう一度そっとくちびるを合わせて、こはくさが名残惜しそうに微笑んだ。部屋着代わりの半ズボンはダボッとして見えるとはいえ、盛り上がっているのは一目瞭然じゃった。それはHiMERUさも同じことで、細身のズボンが微かに膨らんでおった。
「あの、桜河」
HiMERUさがキュッと手に力を加えたので、こはくさは驚いて顔を上げた。最後の口付けが終わったら、何も起きていなかったみたいにまた他愛のない話をして、帰っていくのが常だったんじゃ。
「えっと……何と言うか」
触っていいかと尋ねて、どこをと問われれば何と答えればいいのか。考えあぐねてHiMERUさは俯いてしもうた。いや、俯いたというよりは、目で訴えることにしたんじゃろうか。そのつもりがあったのか無かったのかは本人にしか分からんが、とにかくHiMERUさはこはくさの脚の付け根をじっと見つめておった。知ってか知らずか、人差し指を軽く噛んで。
「あの、HiMERUはん? そんなに見られるとわしも恥ずかしいんやけど……その、堪忍な」
寝巻きの裾を引っ張って隠そうとするこはくさの手を取って引き寄せ、しばらくうろうろとした後、そっと解放してHiMERUさは蚊の鳴くような声で呟いた。
「俺も……」
「え?」
案の定聞き取れなかったこはくさが首を傾げると、HiMERUさは意を決した様子で顔を上げ、そっとこはくさを抱き締めた。それからキュッと腕に力を込め、耳元で囁いた。
「桜河に触れてみたい」
「わしに?」
今まさに触れとるやん、という顔で3秒ほど固まった後、こはくさの顔がみるみるうちに赤く染まった。閻魔大王の親戚か何かかと思うほどに。
「わし、あんまり頭良くないから間違いやったら忘れてほしいんやけど、それって」
「そうです」
てんやわんやになったこはくさが皆まで言ってしまう前に腕に力を込めて、HiMERUさが遮った。よっぽど恥ずかしかったんじゃろうて、白い耳が茹でたみたいになっておった。
「……ね、桜河。触れても良い?」
HiMERUさはまた蚊の鳴くような声で囁くと、こはくさの首筋に顔を埋めた。耳のすぐそばだったので、今度は聞き逃さなかったらしい。こはくさは小さく頷いた。
解いた長い腕がこはくさの身体を撫でながらゆっくりと下りていく間、こはくさは潤んだ目でHiMERUさの手を追った。顔が熱すぎるせいか、こはくさの下まぶたにはうっすら涙が滲んでおった。
「んっ」
ほっそりした指が膨らみに触れると、こはくさは小さく跳ね、口に手を押し付けた。長い人差し指はそっと、稜線を描くように腹で撫でたかと思えば、小さく引っ掻いて、感触を確かめていた。
「かたい……」
HiMERUさはぽつりとうわ言みたいに呟いて、ガチガチになった膨らみを優しく手で包み込んだ。
「あぅ……あ、当たり前やろ」
「気持ちいい?」
「ん……あっ、や、出てしまうって」
ぺたぺた、すりすり、こしこし。あと壁の神も何かぴったり当てはまる擬音を言うておったのに忘れてしまった。とにかくHiMERUさは喜びと驚き、恍惚やらがないまぜになったみたいな表情を浮かべて、こはくさのものを夢中で撫でた。
「な、ぬしはんのも触って良ぇ?」
このままじゃパンツの中で出てしまうと思ったのか、一瞬だけ青くなったこはくさが、HiMERUさの手を握って尋ねた。
「わしもぬしはんの触りたい。わしだってぬしはんが気持ち良くなっとるときの顔見てみたいし」
HiMERUさが何か言う前に重ねて訴えるあたりが末っ子じゃな、よく分かっとる。何を怖がることがあるのか、HiMERUさはたぶん断るつもりだったんじゃろ。咄嗟に腰を引いておったのを、おらたちは見逃さなんだ。こはくさも見逃さなんだ。
「なあ、わし1人だけやなくて、ぬしはんと一緒に気持ち良くなりたい」
ちゅっ、と可愛く口付けて、伸び上がって抱きしめた。
「ええやろ? あかん?」
ダメ押しとばかりに頬にもくちびるを押し付けて、耳元で甘えた声を出すこはくさに、HiMERUさもぐらっと来たらしい。小さく首を振ってこはくさの手を取ると、そっと自身の下腹部に導いた。
「桜河、キスしてください」
空いた手でこはくさの上着を引いて、HiMERUさは目を閉じた。こはくさはベッドに膝をついて座り直し、HiMERUさにくちびるを押し付けると、2人は辿々しく舌を絡ませあった。
「ん……」
こはくさの手のひらがHiMERUさの太ももを撫でると、HiMERUさはおずおず、拳二つ分ほどだけ膝を開いた。ぺたぺた、すりすり、自分がされたのと同じように手を当てがうと、HiMERUさの力が抜ける。それがうれしかったのか面白かったのか、こはくさはのしかかるように深く口付けながら、HiMERUさの膨らみを何度も下から擦り上げた。
「んん! ん、だめ……桜河、待って、あっ」
興奮しすぎて聞こえてなかったんじゃろうな。ぼすん、とベッドに倒れ込むと、こはくさはHiMERUさと脚を絡ませて、ぎゅうぎゅうと腰を押し付けた。息を荒くしたこはくさに見下ろされて、HiMERUさももう何も言わなかった。こはくさの頭を抱き寄せて口付けをせがむと、片手でズボンの留め具を外した。それからこはくさのパンツに手を差し込んで、逆手に輪を作るとゆるゆると動かした。
「んぅ、む……はぁ」
こはくさはHiMERUさが重くないように右肘に力を込めて、空いた手でHiMERUさに倣った。左手で下腹部をまさぐって、留め具が外れていることに気付くと、一瞬ほっとしたように微笑んだ。
HiMERUさがこはくさの先端を責めれば、こはくさも遅れてHiMERUさの先端を責めた。HiMERUさがこはくさの袋に触れれば、こはくさも倣った。そうこうしているうちにこはくさは果て、HiMERUさの胸に倒れ込んだ。果てた時にキュッと強く擦られた弾みでHiMERUさも果てていたらしい。しばらくの間、2人は積み重なったまま、静かにベッドに浮き沈みしていた。
それから四半刻もしないうち、何事もなかったかのように衣服を整えてHiMERUさは帰っていった。珍しくドアの前で、HiMERUさから口付けて。汚れたティッシュはビニール袋に縛っておらの中へ放り込んで。
え? いや、だっておらゴミ箱の神だでな。知らんかった? じゃあ何の話のつもりで聞いとったんさ。はは、いくら気にかけて見とる2人とはいえ、ティッシュのまま捨てられんで助かったわ。あんまり口に入れられたいもんではねぇでな。まあ、あの2人が直接口に……ん、や、何でもねぇ。
ん、もうこんな時間か。明日も早いんでねぇんか。早よ風呂さ入って寝ろ。頑張って生きてりゃおらにはまた会える。そうさ、宿っとるのがゴミ箱とはいえ神は神だでな。神は嘘つかねぇ。ああ、安心しておやすみ。