おやすみなさいの前に
あれは桜河17歳のクリスマスイブのことじゃった。成人するまであと1ヶ月強がどうしても待たれんかったんじゃな。ああ、まあそれはお互いさまなんじゃろうけど。数時間前までサンタクロースなぞ信じていないと豪語しておったのに、「恋人たちの聖夜」を都合の良い言い訳にして……そう、ちょうど仕事で地方へ行っていて、これまたなんとも都合の良いことに、宿は2人部屋だったんじゃ。
はじめはキスだけのつもりじゃった。なんせ2人とも初心そのものじゃから、キスするにもじれったくなるほどの月日を要した。それまで軽く触り合うことはあっても、ヒメルンルンは未成年の桜河に手を出すことをずっと躊躇っておったしの。桜河もまたそんなヒメルンルンの気持ちを汲んで、我慢に我慢を重ねておった。
じゃからまあ、1ヶ月ちょっとのフライングくらいは許してやってほしい。 のう、おぬしらもそう思うじゃろ。なに、ヒメルンルン呼ばわりが気になる? まあ、そう言うてくれるな。わしはこの呼び方がいっとう気に入っておるんじゃ。
とにもかくにも、湯上がりの2人は桜河のベッドに腰掛けて、無我夢中でくちびるを重ねておったのじゃ。疲れていたのかご無沙汰だったのか、はたまた単にヒメルンルンがえっちだったのかはわしには分からん。そのうち、桜河の股ぐらがむくむくと膨らみ始めての。ヒメルンルンもそれに気付いておった。ああ、健気に気付いていない振りに徹していたが、熱っぽい視線がちらちらと落ちていたのをわしらは見逃さんかった。
〈いいんじゃない? 今日くらい、クリスマスイブだし〉
この老いぼれとともに2人を見ておった愛を司る女神は小癪なウインクを一つ寄越してみせると、2人にフッと息を吹きかけた。聞けば、欲求に素直になれる魔法を一つまみ振りかけてやったんじゃという。
ヒメルンルンはじっと桜河のそれを見つめると、引き寄せられるように右手を差し出した。寝間着の上から存在を確かめるように手のひらで包み込み、優しく撫で回しながら、下くちびるを舐めた。
「ひっ、HiMERUはん?」
顔を真っ赤にして腰を引く桜河。今夜はキスだけと決めた張本人が一線を越えて来たのだから、驚くのも無理はない。
熱に浮かされたヒメルンルンは、湯上がりの膝が汚れることをいとわず、カーペットに膝をついて桜河を見上げた。宿備え付けのワンピースみたいなパジャマに手を差し込んで、パンツのゴムに手を掛けると、腰を浮かすように目で訴えた。
「今日はダメっち言うたんHiMERUはんやのに、どういう風の吹き回しなん?」
やれやれと苦笑いしながら要求に応じた桜河は、数秒後には一方的に与えられる快感に夢中になって小さく鳴いていた。
「んんっ……ぬしはんの手、冷たくて気持ちぃ……」
ここまで来たらもう引き返すなんていう選択肢はない。素直に身体を明け渡し、口に爪を押し当てて快感に耐える桜河の表情に、ヒメルンルンのスイッチがカチッと入る音がした。ああ、わしらはたしかに聞いたぞ。
ひとりでに失速した手を、いや手の中のものをぼーっと見つめていたヒメルンルンは、ごくりと喉を鳴らすと、おもむろにそれを口に咥え込んだ。
「わっ! えっ、なに!?」
びっくりした桜河が慌てて視線を落とすと、大事なものがメルに食われていた。珍しく紅潮した頬をうっすら膨らませ、目を潤ませたヒメルンルンに見上げられて、桜河はうっかり果てそうになって頬の肉を噛んだ。
「いや、ちょぉ、何しとるん! そんなもん口に入れたらばっちいで!?」
軽いパニックに陥りながらも、まずヒメルンルンの心配をするあたりがあの子は本当にいじらしい。身を捩って抜き取ろうともがいて見るも、ヒメルンルンは長い両腕で桜河の腰を抱き寄せた。
「ひははふはひ」
ヒメルンルンはえずきそうになりながらもんくんくと桜河のものを呑み込んで、涙で濡れた目を閉じた。桜河の熱さを感じながら左手で自身の膝を撫で、保湿クリームが渇ききっていない内ももに触れた。その恍惚とした顔と言ったら、上から見下ろしている桜河には見えないのが可哀想なほどじゃったわ。
まあ、桜河は桜河ですごい顔をしておった。口に出すまいと快感に耐えてろうのか、たどたどしい刺激がもどかしくてたまらんのか、どっちかは知らん。ぎゅっと目を閉じて天を扇ぎ、人差し指の第一関節を噛んでおった。
ヒメルンルンは下から二つ目のボタンだけ外すと、下着に手を差し込んだ。桜河にばれないように膝を立て、慣れない左手で自身のものもしごきながら、懸命に顔を上下させていた。その光景があまりにもいかがわしかったのでわしは思いつきもしなかったが、愛の女神は後になって、どうせ膝を立てるなら裾から手を入れた方が手っ取り早かったんじゃないしらとか呟いておった。
ただ顔を上下させていたヒメルンルンが思いついたようにぢゅっと吸い上げると、桜河は文字にしようがないような情けない声を上げ、あっさり果ててしもうた。自分のものにもかまっていたから、桜河の状態を把握できていなくて驚いたんじゃな。そのまま口で受けてしまったものの、とても飲み込めんかったんじゃろう。ヒメルンルンは口を押さえると慌てて洗面所へと駆けていった。
故意はなかったとはいえ、あんな臭いのするもんを恋人の口に含ませてしまったわけじゃからな。桜河は心配で後を追いたかったんじゃろう。よろよろと立ち上がったものの、鼻からつーっと生温かいものが垂れてきて、そっちにかかりっきりになってしもうた。布団が汚れる前に気付いてティッシュを掴めたからよかったものの、ゴミ箱を抱え込んで動けなくなってしもうた。暖房をつけておったはいえ、12月に鼻血が出るなんて17歳って若いのぉ。
やがて戻ってきたヒメルンルンは、ついでに浴室で処理してしまったようじゃった。 きちんとボタンを閉めて戻って来たからの。入れ違いに桜河も顔を洗って、謝りあって、少し気まずい空気のままそれぞれの布団に入った。
出すもの出して早々に眠くなった桜河の枕元にヒメルンルンが何かを置いているのを見た気もするが……その後のことはよく覚えておらん。この老いぼれが知っておるのはそこまでじゃ。
本当にこんな話が寝物語で良かったんかの。まあ、おぬしが良いならわしは構わんが……さあ、夜ももう遅い。目を閉じて、ゆっくりおやすみ。